福岡県福岡市のOYASAI株式会社(代表取締役:國村隼太)は、福岡市の中心部にある「天神地下街」に屋内型水耕栽培ユニット「OYASAI FARM」を設置し、都市空間での新しい農業モデルの実証を始めた。この取り組みは、単に地下街で野菜を育てることを目的としたものではない。「食べられる観葉植物」として空間を彩りながら、収穫した野菜を販売して収益も生み出す。そうした新しい都市型農業の可能性を検証するものだ。

「見るための緑」から「収益を生む緑」へ
商業施設やオフィスに置かれる観葉植物は、景観や癒やしをもたらす一方で、維持管理に費用がかかるものだった。OYASAIはそこに「食料生産」という新たな価値を加えようとしている。緑が空間を豊かにするだけでなく、経済的な価値も生み出す仕組みの構築を目指す。
背景には、都市空間の使われ方がある。商業施設やオフィス、駅、地下街など人が集まる場所は基本的に消費活動の場であり、食料を生産する場所として活用されることはほとんどなかった。一方で近年は、都市部の緑化や空間価値の向上、持続可能な食料生産への関心が高まっている。同社は、この2つの課題を同時に解決できる可能性があると考えている。そこで打ち出しているのが、農業とインテリアを融合させた「アグリインテリア」という考え方だ。野菜が育つ姿そのものを空間演出に生かし、収穫した野菜は食材として利用する。「見るための緑」から「食べられる緑」へ、そして「収益を生む緑」へという発想である。

3つの観点で検証、ユニットの前で足を止める来街者も
今回の実証では、主に次の3つの観点から検証を進める。
- 都市空間における栽培・運用の実現可能性:地下街という特殊な環境で、野菜の安定的な生育や設備の稼働状況、維持管理の負担などを確認する。従来の農業施設とは異なる環境でも、継続的に野菜を生産できる仕組みの確立を目指す
- 「食べられる観葉植物」としての空間価値:野菜を育てること自体が、来街者にどのような体験や価値を提供できるのかを検証する
- 収益を生み出す農業モデルの事業化可能性:実現に向けた基礎となる栽培・運用面のデータを収集し、今後の事業化検討につなげる
設置されたユニットの前では、足を止めて野菜を眺めたり、写真を撮影したりする来街者の姿も見られているという。こうした反応を通じて、農業が空間演出や新たな来街体験として機能する可能性を探る。
構想は「自販機のように設置できる、収益を生む農園」
OYASAIが将来的に目指すのは、野菜を育てる設備そのものが収益を生み出す仕組みだ。街中の自動販売機は、限られたスペースで商品を販売して収益を生んでいる。同社が構想するのは、その農業版ともいえる仕組みである。たとえば商業施設の一角にOYASAI FARMを設置する。日常的には観葉植物のように空間を彩り、野菜が育ったら収穫する。収穫した野菜は、施設内の飲食店に供給したり、地域の消費者に販売したりする。施設利用者への販売なども通じて、装飾や設備に使われていたスペースを、食料を生み出す小さな生産拠点であり新たな収益源でもある場所に変えるモデルだ。ただし、採算性は設置場所や栽培品目、販売先などによって異なる。そのため今後は、収量や運用コスト、販売方法などを検証し、持続可能なビジネスモデルの構築を進めるとしている。
その先に描くのは、都市の中に点在する小さな畑がつながり、街全体が一つの農場のように機能する未来だ。オフィスビルで育てた野菜は社員食堂で提供し、ホテルで育てたハーブはその日の料理に使う。商業施設で育てた野菜は施設内のレストランで提供し、駅や地下街で育った野菜は地域の人々が購入する。身近な場所で野菜の成長を目にする機会が増えれば、食育や農業への関心を高めるきっかけにもなるという。将来的には、都市の遊休スペースの有効活用や、生産地から消費地までの輸送距離の短縮など、環境面での価値創出も目指す。同社は、「街に畑を設置する」ことが自動販売機の設置と同じくらい当たり前になる未来を掲げており、天神地下街での実証はその実現に向けた第一歩と位置づけている。
関係者のコメントと会社概要
Fukuoka Growth Nextの原田氏はコメントの中で、OYASAIは急成長が期待されるスタートアップを集中的に支援する「High Growth Program」の2025年度採択企業であり、今回の実証もその支援の一環として行われるものだと説明している。原田氏は、これまでコストをかけて維持するものと捉えられてきた都市の緑を、OYASAIが食料と収益を生み出す資産へ変えようとしていると述べた。そのうえで、福岡の街を舞台にしたこの挑戦が日本中、そして世界の都市へ広がっていくことへの期待を示している。福岡地下街開発株式会社の豊島氏は、天神地下街が2026年に開業50周年を迎えた節目に「OYASAI FARM」を設置できたことを嬉しく思うとコメントした。買い物や通勤の途中で野菜の成長を身近に感じてもらえるだけでなく、SDGsやCSRの観点からも非常に有意義な取り組みだと考えているという。
國村代表は、農業をもっと身近で、もっと自由なものにすることを目指していると語る。福岡を代表する天神地下街に小さな畑を設置できたことは、同社にとって大きな一歩だという。街中で野菜が育つことが珍しくなくなり、そこで収穫された野菜が近くの飲食店や家庭で消費される。農業が街の景観の一部となり、同時に経済的な価値も生み出す。そうした未来を福岡から実現していきたいとしている。2025年4月に設立されたOYASAIは、「世界最小の畑を街にインストールする。」を掲げ、都市の空きスペースを農業生産拠点へ変える水耕栽培・分散型植物工場事業を展開している。植物工場を、オフィスや飲食店、商業施設、福祉施設など、あらゆる場所に設置できる身近な農業インフラにすることを目指す。水耕栽培ユニット「OYASAI FARM」の開発・提供をはじめ、栽培支援や農福連携などを通じて、新しい都市農業の社会実装を進めている。事業内容には、AI搭載型スマート栽培ユニットの開発と、地産地消型スマート菜園の社会実装を挙げている。
出典:OYASAI株式会社





